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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)11498号 判決

原告 株式会社 伸洋商事

右代表者代表取締役 本川結子

右訴訟代理人弁護士 大水勇

同 遠藤誠

被告 中國國際商業銀行

日本における代表者 頼秀雄

右訴訟代理人弁護士 宇佐美明夫

同 森戸一男

主文

一  被告は、原告に対し、金五六二万九七二九円及びこれに対する平成一〇年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分して、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金六一六万四七二九円及びこれに対する平成一〇年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、原告が、外国会社にテキスタイルを販売するに当たり、その代金決済のため信用状及びその改訂版(アメンド)が発行されたところ、右信用状の通知銀行となった被告が原告への信用状改訂版の通知を遅滞したため、原告の買主への商品発送が遅れ、買主からの値引き請求に応じざるを得なくなったとして、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償金として、六一六万四七二九円(値引き額、航空運送費及び弁護士費用)の支払を求めている事案である。

二  争いがない事実等

1  原告は、紳士・婦人・子供服地の輸出入、販売等を目的とする株式会社である。

被告は、台湾台北市に本店を有し、中國國際商業銀行條例を準拠法として設立された銀行であり、日本においては、東京と大阪に営業所(支店と呼ばれている。)を有する。

2  原告は、台湾の東貿易有限公司(フィニアック・トレーディング・カンパニー、以下「フィニアック」という。)との間で、テキスタイルを継続的に販売する取引をしていたものであり《証拠省略》、平成九年六月から同年一一月までの間、別紙取引目録1ないし6の各(1)記載のとおり、フィニアックに対し、テキスタイルを販売する旨の売買契約を締結した。

3  フィニアックは、別紙取引目録1ないし3記載の取引に係る売買残代金(同目録1ないし3の各(2)記載の金額)を含む代金八七六万三五〇〇円の支払のため、上海商業儲蓄銀行(以下「上海銀行」という。)に対し、原告を受益者とする信用状の開設を依頼した。上海銀行は、右依頼に基づき、平成一〇年一月五日、別紙信用状目録(一)記載の信用状(以下「本件原信用状」という。)を発行した上、同日、電信により、被告東京支店に対し、被告大阪支店を電信の名宛受取人と定めて、本件原信用状を原告に通知するよう依頼した。そこで、翌六日、被告東京支店は本件信用状を被告大阪支店に転送した上、これを受けた被告大阪支店において、右信用状を原告に通知した。なお、被告においては、外国から電信で送られてくる信用状を受信する設備は東京支店にしかなく、大阪支店宛のものもすべて東京支店で受信し、それを大阪支店に転送していた。

4  その後、別紙取引目録4ないし6の取引に係る残代金(同目録4ないし6の(2)記載の金額)その他の原信用状に含まれていない取引代金についても本件原信用状の対象とすることになったことから、フィニアックは、上海銀行に対し、本件原信用状の金額を増額する旨の改訂版(アメンド)の開設を依頼した。そこで、上海銀行は、平成一〇年一月二二日、右依頼に基づき、別紙信用状目録(二)記載の改訂版(以下「本件アメンド」という。)を発行した上、同日、電信により、被告東京支店に対し、本件アメンドを原告に通知するよう依頼し、被告東京支店は翌二三日電信を受けた。

5  ところが、その後、本件アメンドの被告大阪支店への転送が遅れて平成一〇年二月四日となり、同支店から原告に通知がなされたのも同日となった。

6  別紙取引目録1ないし6の取引(以下「本件取引」ないし「本件売買契約」という。)の商品船積み期限は平成一〇年一月三一日となっていたところ、原告は本件アメンドの通知が遅れたことから期限に船積みできず、そのために取引先からの値引き要請に応じざるを得なくなり、損害を被った。

7  なお、本件原信用状及びアメンドは、国際商業会議所の制定する荷為替信用状に関する統一規則及び慣例(以下「信用状統一規則」という。)に準拠して発行されたものであり、これをめぐる法律関係は同規則の定めに従うこととなる。

三  争点

1  通知銀行である被告の原告に対する本件アメンドの通知が遅れ、商品発送の遅滞による損害を生じさせたことが違法であるか否か。

(原告の主張)

(一) 信用状は、国際売買取引における代金決済手段として利用されるものであるところ、受益者は信用状の到着を確認してからでないと商品の発送ができないのであるから、信用状の通知に迅速性を要することは銀行業界の常識であり、このように信用状の通知が遅滞なくなされるという信頼があるからこそ、信用状が国際貿易の代金決済手段として使われるのであって、信用状統一規則も、通知銀行が遅滞なく信用状の通知をすべきことを当然の前提としている。

したがって、受益者が信用状の通知を遅滞なく受けることは法律上保護に値する利益というべきであり、通知銀行は、受益者に対し、遅滞なく、信用状を通知すべき義務がある。

(二) これまでの原、被告間での取扱いでは、信用状が発行された翌日に原告に到達している例がほとんどで、遅くとも三日以内には到達している。しかるに、本件アメンドは平成一〇年一月二三日に被告に到達していたのに、原告に通知されたのは同年二月四日であり、右通知の遅れは違法である。

(被告の主張)

(一) 信用状統一規則には通知銀行が遅滞なく信用状を通知すべき義務を定めた規定はない。また、通知銀行は、発行銀行より委任を受けて信用状の通知事務を処理するにすぎず、受益者との間では、何らの権利義務関係にも立たないのであり、受益者は上記委任事務の反射的効果として通知を受ける利益を得ているにすぎない。したがって、そもそも受益者は通知銀行に対して、信用状の通知を求める権利を有しないのであるから、その遅延を問題にする余地もない。

(二) 商品の輸出手続に、信用状の通知を必要とする法令上の制限は一切なく、受益者が信用状の通知を待たないと商品の発送ができないというのは、輸出業務一般の通例、常識に反する。

(三) 信用状に基づく債権、債務関係は、原因関係とは無因とされており、通知銀行は、買主と売主の原因関係を関知し得ないのであるから、信用状の記載に従って通知事務をすれば足りる。本件では、原告の主張する船積み期限や信用状の通知を待って船積みするといったようなことは、何ら本件原信用状及びアメンドに条件として記載されておらず、原告が原因関係たる売買契約上の納期限に納入するための船積みを行わず義務違反を生じたというのであれば、それは専ら原告の負担と責任において行ったものであり、被告の関知するところではない。被告は、本件アメンドの有効期限(平成一〇年二月二八日)及び船積み最終日(同月二〇日)に十分に余裕のある日時をもって本件アメンドを通知したのであり、本件アメンドの通知遅延は本件原信用状及びアメンドの効力を妨げていないのであるから、違法ということはできない。

(四) 平成一〇年一月二三日の被告東京支店への通知依頼は、上海銀行が本件アメンドの通知銀行を被告東京支店と間違えたものであるところ、信用状統一規則二条によれば、銀行の支店は他行とみなされるから、右は他行に対する通知依頼とみなされ、被告大阪支店が通知依頼を受けたのは平成一〇年二月四日であり、被告大阪支店は、その後速やかに原告に通知したから遅滞はない。

2  右通知が遅れたことにつき被告従業員に過失があったか否か。

3  損害及び因果関係

(原告の主張)

(一) 原告とフィニアックは、平成一〇年一月一七日、本件取引に係る商品について、遅くとも同月三一日までに原告が船積みする旨約したところ、同月二八日ないし二九日までに本件アメンドが通知されていれば、右納期に間に合わせることができた。しかるに、被告の本件アメンドの通知遅延により、原告がその到着を確認できなかったため、輸出手続が大幅に遅れ(信用状の到達を確認できなければ代金決済を受けられないおそれがあるから、輸出手続はできない。)、右納期に納品できなくなった(本件原信用状とアメンドは一体のものであるから、本件アメンドの通知の遅延により、本件原信用状に係る取引の商品も納品できなかった。)。

(二) 右納期遅延により、原告は、フィニアックの値引き請求に応じざるを得なくなるとともに、航空便で直ちに商品を納入しなければならなくなり、次の損害を被った(値引きの合意は、フィニアックと実体が同一の昌蓬實業有限公司(以下「グローリー」という。)との間でなされた。)。

(1) 代金値引き額 四四七万四九七二円

(別紙取引目録1ないし6の各(3)記載のとおり本件取引の代金額を基準として割り引いた金額合計三六四万八三五円及びその他グローリーが被った損失八三万四一三七円)

(2) 航空運送費 六五万四七五七円

(三) 右の損害は、本件アメンドの通知遅延により通常生ずべき損害というべきである。仮に、右損害が、通常生ずべき損害に該当しなくても、通知銀行である被告にとっては、予見可能な損害である。

(四) 本件訴訟追行のため原告が大阪弁護士会の報酬規定に従って支払を約した弁護士費用一〇三万五〇〇〇円も被告が賠償すべき損害に含まれる。

(被告の主張)

(一) 信用状の通知がなくとも輸出手続を行うのに何ら支障はないのであるから、信用状の通知遅延と商品発送不能の間には、相当因果関係はない。殊に、本件アメンドの通知がなくとも本件原信用状の効力に何の影響もないのであるから、本件原信用状に係る取引(別紙取引目録1ないし3記載の取引)についての船積み遅延は、本件アメンドの通知遅延と関係がない。

(二) グローリーは、本件信用状、アメンドとは関係のない第三者であり、本件通知の遅延と右値引きとの間に因果関係はない。

(三) 本件原信用状及びアメンドの開設申請書に記載の本件売買契約の代金額と原告が主張する本件売買契約の代金額は、大きく異なり、後者は前者よりはるかに大きい。したがって、本件売買契約の代金額に基づいて、その三五ないし五〇パーセントと決定された値引き分を損害として請求するのは過大請求である。

(四) 航空運送は、本件原信用状及びアメンドの定める運送方法ではなく、これに要した費用は、本件アメンドの通知遅延とは関係のない経費である。

第三争点に対する判断

一  争いのない事実と《証拠省略》により認められる事実は次のとおりである。

1  本件売買契約の締結、本件原信用状及びアメンドの開設・発行の経緯の概要は、前記第二、二の2ないし4に記載のとおりである。

2  テキスタイルの国際売買では、契約時から納入まで時間を要するため、契約時にはおおよその納期しか決められず、納期が近づいてから特定の日を納期に定めていた。本件売買契約においても、契約時には納期はおおむね平成一〇年一月末から二月初めとされていたが、その後、原告とフィニアックは、平成一〇年一月一七日に、遅くとも同月三一日までに本件取引に係る商品を船積みすることを約した。そして、別紙取引目録4ないし6の取引に係る商品も同目録1ないし3の取引に係る商品と同時に船積みすることになり、それらの売買残代金を含め、原信用状に含まれない取引代金も本件原信用状の対象とすることになったために、フィニアックは上海銀行に本件アメンドの開設を依頼した。本件アメンドは、本件原信用状の金額を八七六万三五〇〇円から一四三〇万八九〇〇円に増額するとともに、信用状の有効期限を平成一〇年二月二〇日から同月二八日に、また船積最終期限を同月一〇日から同月二〇日にそれぞれ延期するものである。

3  右依頼に基づき本件アメンドを発行した上海銀行は、平成一〇年一月二二日、被告東京支店に対し、電信により、本件アメンドを送信したが、その際、電信の名宛受取人を原信用状のそれと同様被告大阪支店とすべきところ、被告東京支店と誤って記載して通知してしまった。そのため、被告東京支店は、同支店を電信の名宛受取人とする原信用状を確認できなかったことから、同日、電信により上海銀行に対し、本件アメンドに対応する原信用状がないため調査してほしい旨問い合わせた。これに対し、上海銀行は、平成一〇年一月二六日、被告東京支店に対し、電信の名宛受取人は被告大阪支店であるので同支店に転送してほしい旨の通知を電信で送信した。

4  被告東京支店は、翌二七日午前八時一一分に右通知を受け取ったが、担当課では臨時の職員が取り扱い、当該職員は事務手続に不慣れであったため、被告大阪支店への転送手続をせずに、上司に相談して指示を仰ぐこともなく右通知を未処理分ファイルに入れてしまった。そのため、右通知はそのまま放置される状態となった。

5  他方、原告は、船積み手続に通常三日を要するので、平成一〇年一月末に船積みするのに、通常どおり信用状を受けとってから輸出手続を行うとすると同月二八日ないし二九日には信用状を受け取る必要があるところ、同月二八日に至っても、フィニアックが開設することになっていた本件アメンドが到着しなかったため、被告大阪支店に問い合わせた。しかし、同支店の担当者は、まだ到着していないと回答した。また、フィニアックは、平成一〇年一月二四日から二月一日まで台湾における民間企業の旧正月休みに入っていたため、原告は、フィニアックと連絡がとれなかった。原告は、本件アメンドの到着が確認できなかったため、商品の船積み、発送ができなかった。

6  原告は、平成一〇年二月二日、フィニアックから、本件アメンドを発送したのであるから商品を発送してほしい旨の抗議を受けた。そこで被告大阪支店に再度問い合わせ、東京支店にも確認してほしい旨申入れた。被告東京支店は、同月四日、被告大阪支店から本件アメンドが到着していないかの問い合わせを受け、調査の結果未処理ファイルに入っているのを発見して、直ちにこれを被告大阪支店に転送した。転送を受けた被告大阪支店は、同日、同支店長張武雄が、原告方に本件アメンドを持参して通知した。

7  被告の原告に対する信用状の通知は、本件アメンドを除けば発行日から三日以内になされており、殊に発行日が金曜日以外の場合には、ほとんどが翌日に通知されている。

8  原告は、平成一〇年二月五日、グローリーから、原告の商品納入が遅れているため正月明けの生産ラインに間に合わずグローリーの顧客より責任を追及されている旨の抗議を受けたため、同月六日、グローリーに対し、できるだけ生産ラインに遅れを生じさせないよう直ちに商品を航空便で発送するとともに代金値引きにも応じることを約束した。

なお、フィニアックとグローリーは、同一場所で営業し、同一の企業グループに属して、経営者・担当職員も共通し、実体的にはほとんど同一と目されるものである。

9  原告は、直ちに航空便による商品発送の手配をして、平成一〇年二月一三日、台湾に到着し、通関手続きを経て、同月一七日、グローリーの顧客に引き渡された。原告は、右航空機による運送費用として、株式会社交通公社航空貨物部に六五万四七五七円を支払った。

また、原告は、グローリーからの四四七万四九七二円の代金値引要求(別紙取引目録1ないし6の各(3)記載のとおり本件取引の代金額を基準として割り引いた金額合計三六四万八三五円及びその他グローリーが被った損失八三万四一三七円)に応じた。

二  争点1(違法性)について

1  信用状は、国際貿易取引において、国際的に信用力のある買主の取引銀行が、船積書類等と引換えに、支払を約しないしは売主の振り出す為替手形の引受・支払を確約することによって、売主及びその取引銀行の不安を除去し、貿易代金の決済が迅速かつ安全・確実に行われるためのものとして機能し、広く利用されている。そして一般的に、受益者たる売主が信用状の到達を確認しないで商品を発送することは売主にとって代金決済を受けられない危険を伴うため、受益者は信用状の通知を確認した上で始めて商品の発送手続を行うというのが国際貿易の実務として行われているところである。これは、信用状の発行、通知等に関わるのが信用のある銀行であって、通知等の手続が当然迅速・適確になされるであろうことを前提としており、買主は、売主の発送期限に合わせて、それまでに信用状の通知がなされる時期をみはからって信用状の開設を行うのである。したがって、受益者において通知銀行からいつ信用状の通知を受けられるか分からず輸出手続遅延のおそれにさらされるのであれば、信用状は前記のような国際貿易取引における迅速・確実な代金決済手段としての機能を果たせなくなるおそれがある。かかる信用状の機能及び国際貿易取引の実態に照らせば、信用状制度自体、信用状取引における通知事務を担う通知銀行に対し、通知の遅れにより商品発送の遅滞等の事態を生じさせないよう、迅速に通知事務を処理すべきことを要請しているというべきである。この点、信用状統一規則には通知銀行の迅速な通知義務を直接定めた規定はないが、同規則七条a項が、通知銀行は信用状が外観上正規に発行されたものかどうかを点検すれば足りるとし、通知しないことを選択した場合にはその旨を遅滞なく発行銀行に通報しなければならないとしていることからすれば、通知銀行の通知事務が迅速に行われるべきことを当然の前提としているというべきである。

右によれば、通知銀行より迅速な通知を受けられるという受益者の信頼は法律上保護に値する利益というべきであり、通知銀行としては、受益者の右利益を保護し、通知の遅れによる商品発送の遅滞等を生じさせないために、通常通知に要する期間内にできるだけ迅速に通知事務を処理すべき不法行為法上の注意義務を負っているものということができる。

2  これを本件についてみると、前記一の3ないし7に述べた本件アメンドの通知までの経緯及びこれまでの被告の原告に対する信用状の通知期間の実状に照らせば、被告東京支店が平成一〇年一月二七日に上海銀行より本件アメンドの被告大阪支店への転送依頼を受けながらこれを原告に通知するのが同年二月四日まで遅れたことにつき、被告に注意義務違反があり、違法と評価すべきことは明らかである。

3  右に述べたところによれば、前記第二、三、1の被告主張(一)ないし(三)は、被告の通知遅延が違法であると認めることに対する反論として意味をなさないことが明らかである。また、同(四)で、被告は、平成一〇年一月二三日の上海銀行からの通知依頼は、同銀行が本件アメンドの通知銀行を被告東京支店と間違えたものであり、信用状統一規則二条によれば、右は他行に対する通知依頼とみなされ、被告大阪支店が通知依頼を受けたのは平成一〇年二月四日であると主張する。しかし、右規定は異なる国の支店は他行とみなす趣旨のものであり、同じ日本にある被告東京支店と大阪支店には適用されないことは明白であるから、これも的外れの主張である。

三  争点2(過失)について

前記一の3ないし6に認定したところによれば、本件アメンドの通知の遅れは、平成一〇年一月二七日に上海銀行から本件アメンドを被告大阪支店に転送するよう依頼を受けながらこれを放置した被告東京支店職員の不適切な事務処理によるものであり、被告に過失があることは明らかである。

四  争点3(損害及び因果関係)について

1  値引き代金及び航空運送費

(一) 前記認定によれば、原告フィニアックは、本件商品を平成一〇年一月三一日までに船積みする旨合意したところ、本件アメンドの通知が同年二月四日まで遅延したことから、原告は本件アメンドの到着を確認できなかったため、船積み期日に商品を船積みできず、グローリー(フィニアックと実体的にほとんど同一と目される会社であるから、その値引請求はフィニアックの値引請求と実質的に同視できる。)の値引き請求に応じざるを得なくなるとともに、できるだけ生産ラインに遅れを生じさせないよう本件商品を航空便で運送したというのである。また、上海銀行から同年一月二七日(火曜日)午前八時一一分には本件アメンドの被告大阪支店への転送を依頼する電信が被告東京支店に入ったのであるから、これを速やかに被告大阪支店に転送していれば、同月二八日ないし二九日には原告に通知がなされた可能性が高く、特に原告は同月二八日に被告大阪支店に問い合わせをしているのであるから、本件アメンドの到着が確認できたことは確実であり、原告は期日に船積み発送ができたと認められる。したがって、右代金値引額四四七万四九七二円及び航空運送費用六五万四七五七円は、本件アメンドの通知の遅滞と相当因果関係のある損害ということができる。

(二) この点、本件原信用状に係る取引(別紙取引目録1ないし3記載の取引)の商品については、本件アメンドが到着していなくても、すでに到達していた本件原信用状により決済を受けられたといえる。しかし、アメンドが発行された以上アメンドと原信用状とは一体のものとなり、両者が合わせて一通の信用状として扱われるのである。したがって、原告とフィニアックとの間でアメンドの発行が予定され、原信用状に係る取引の商品も一緒に船積みし、代金決済もアメンドにより改訂された信用状によって一括して行うことが合意されていた以上、原告がアメンドの内容を確認するまで原信用状に係る取引の商品も船積みできなかったとしてもやむを得ないことであり、その分の商品の船積みが遅れたことによる値引き分も、本件アメンドの通知遅滞と相当因果関係のある損害ということができる。

(三) 前記代金値引額は、主として、本件売買契約の代金額を基準として、その三五ないし五〇パーセントとして算出されたものであるところ、本件売買契約の代金合計額は本件原信用状及び本件アメンドの開設申請書に記載のそれを大きく上回っている。しかし、これは、原告が代金の一部を既に受領し、残代金についてのみ信用状で決済していたためである。この点、通知銀行としては、信用状に記載されている事項しか知り得ないので、信用状通知遅延により信用状はおろか、信用状開設申請書にさえ記載のないすべての取引部分についてまで無限定に責任を負わなければならないとすると、酷な結果となる場合も生じ得よう。しかし、本件のように売買代金の一部が先に支払われていることは国際取引で通常よくあることであり、被告にとって予見可能な事情であるし、代金値引額もアメンドにより修正後の信用状金額に照らしてみて、被告の予見の範囲を超え酷な結果をもたらすようなものとまではいえない。したがって、右金額は、被告に予見可能な損害として、相当因果関係があるというに障げはない。

2  弁護士費用

本件アメンドの通知遅延の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は五〇万円とするのが相当である。

3  損害合計

以上によれば、本件アメンドの通知遅延の不法行為により原告の被った損害合計額は五六二万九七二九円である。

第四結論

よって、原告の本訴請求は、不法行為に基づく損害賠償金として五六二万九七二九円及びこれに対する不法行為後の平成一〇年三月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとする。

(裁判長裁判官 山垣清正 裁判官 河村浩 井出弘隆)

〈以下省略〉

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